夢二版画のこと 

 

大正イマジュリィ学会 山田俊幸

竹久夢二の魅力は版画にある。

これは誰しも何となくそう思ってはいても、夢二には軸物、額物といった肉筆も残されていることから、どうしてもそちらに気が行ってしまうという結果になる。そちらもそれなりに見所があり、見栄えがするのである。だけれども、魅力は版画、あるいはイマジュリィといわれる紙の上の図像にあるのである。

 もうずいぶん前のこと(50年以上前か)だが、京王百貨店(新宿)で夢二展をみたことがあった。おそらく、そこではじめて夢二の魅力にとらえられたのだと思う。どういうわけだったか、一緒に見て歩いたのは古本屋さんで若い私などの先達だった麦書房の堀内達夫さんと伊藤信吉さんだった。誘われた記憶がないから、会場で出会ったのだろう。堀内さんのつれが伊藤さんだったと思う。私の書物好きは昔も今もかわらないから、夢二の大量の書籍芸術にうっとりしていた。その横で堀内さんと伊藤さんは、肉筆についてあれこれの評をしていた。古いことなので定かではないが、これはダメだねぇという言葉がいくつも吐かれた。その頃の私には判断不能の判断だった。

 伊藤さんは萩原朔太郎の早い研究者であり詩人で、夢二で育った年代。当時50歳くらいとしても、どれだけ夢二を見てきた人かわからない。堀内さんは古本屋さんだが、恩地孝四郎の特集をした「本」という雑誌を出し、その巻末には時々、竹久夢二のものも売品として出ていた。市場(いちば)で夢二を多く見て来た人だ。その2人がそろって「ダメ」というのは贋物だったのだろう。

 

 美術展覧会には贋物は出ないというのは間違いで、美術展覧会だからこそ贋物が出るのだ。担当学芸員は専門家ではない。コレクターが出すといえば、よほどの場合がないかぎりことわれない。「連れ」という出し方がある。Aを借りたいというと、A・B一緒なら借そうという。Aは本物、Bは微妙という借り方である。カタログがBを本物にする。また学芸員の目のない「いさみ足」がある。いかにも、みたいなものを選び、失敗するのだ。あの展示のどれがそうだったのか今は判らないが、肉筆のこわさである。

 のっけの夢二展の経験がそうだったので、私は夢二肉筆についてはしばらく判断をしないようにした。従って夢二は書籍内の版画で楽しむこととしたのである。とはいっても、昔から夢二本は高価。ショーケースには何十万円の夢二本が並んでいた。もちろん、手が出せるものではない。とはいえ、毎週のように開かれる古書会館での古本即売会には数千円(これでも高いのだが)、書籍からの版画の切り落としや、汚本が時々出た。これが夢二を手にできるわずかな機会だった。「竹久夢二の魅力は版画にある」とは、そんなことからなのだろう。

 

私的な夢二の思い出を記したが、ブックセンター・キャンパスでの夢二展示は、小さいながら楽しげだ。

 夢二版画だが、夢二が摺りまで監督したのは港屋版(今のではない)だけだろう。柳屋版も見ていないにちがいない。とはいっても、フランスのポショワール再現をしようとした「婦人グラフ」の木版はステキだ。加藤版画研究所の「雪の夜の伝説」は没後の版。とはいえ、加藤の力のある再現を見せてくれる。版画は再現性の問題でもあるのだ。絵はがきは、加藤で戦中、戦後と2度出している。戦前のものは海外コレクターの人気が高い。木版楽譜は、夢二在世中だが、おそらくデザインなのでおまかせだっただろう。

 会場にはこの他、本なども並ぶかもしれないが、こうした小展示は、来歴さえはっきりさせれば、OKである。

・【婦人グラフ大正13年8月号 木版】「花火 」「勇敢な恋人」

・【婦人グラフ大正13年12月号 木版】「雪の風」「愛の総勘定」

・【夢二小品集 雪の夜の伝説 第一輯 加藤版画研究所 木版】

「童話」「雪の夜の伝説」「早春の山山」「秋の海」

・【婦人グラフ大正13年8月号】

「吉井勇著 「恋三題」挿絵 木版」"

・【婦人グラフ大正13年12月号】

「蒲原春夫著 「女人伴天連第7話 南蛮寺」挿絵 木版」 

・【葉書判 木版画】

・「弘田龍太郎作曲 童謡小曲選集 第1集

京文社刊行 昭和2年 装幀:竹久夢二 木版楽譜」

・「中山晋平民謡曲 第2編 出船の港

山野楽器店 昭和3年 装幀:竹久夢二 木版楽譜」 他

​約40点程をショーケース3台にて展示