店内展示第13回 
2021年9月15日(水)〜 10月15日(金)
「いぬいとみこ展

いぬいの著作と蔵書印

 いぬいが創作し、福音館書店から刊行された『木かげの家の小人たち』(1967)5)と『くらやみの谷の小人たち』(1972)6)は、イギリス生まれの小人たちと少女の森山ゆり達の戦中戦後の交流を記したファンタジーです。 この2冊の単行本は、吉井忠が挿絵を担当しました。 小人たちを描いた緑色の装丁本(1967)と青色の装丁 本(1972)は、学校図書館や書店の本棚で、独特の存在感を示しました。いぬいの旧蔵書の『木かげの家の 小人たち』には、表紙の見返しに、「乾蔵書」角印と「絵入りのEX LIBRIS」印が押印されています。EX LIBRIS は蔵書票のことですが、「絵入りのEX LIBRIS」印には、いぬいが創作した『北極のムーシカミーシカ』に基づ いて、北極グマのムーシカとミーシカが氷山に座って日の出を見ている情景が、画家の大友康夫によって描 かれました。大友康夫の挿絵は、角川文庫の『北極のムーシカミーシカ』(1975)に掲載されています7)。

 いぬいのエッセイ集として晶文社から刊行された『子どもと本をむすぶもの』(1974)は、いぬいの旧蔵書に2 冊ありました8)。その1冊には、表紙のビニール・カバーの下に「保存、訂正、初出入り」の付箋が納められ、表 紙の見返しに「(一九七四年十二月十九日見本)初出と訂正入り、’75 1/2 いぬいとみこ」と記されています が、蔵書印はありません。各エッセイの末尾に、「図書」xx年xx月号、「朝日ジャーナル」xx年xx号、かきおろし、 等が加筆されています。このエッセイ集には、「2 ムーシカ文庫」(p.42-76)に関する文章4点が収録されてい ます。ムーシカ文庫は、1965(昭和40)年4月から1988(昭和63)年3月まで、いぬいとみこが開設した会員制 の子ども文庫のことで、文庫の名称は、『北極のムーシカミーシカ』に登場する北極グマのムーシカとミーシカ に由来します。ムーシカ文庫の活動は、『ムーシカ文庫の伝言板:いぬいとみこの文庫活動の記録』(2004)に まとめられています9)

 いぬいの著作ではありませんが、いぬいの旧蔵書に石井桃子が翻訳した『クマのプーさんと魔法の森』 (1977)がありました10)。この本では、表紙の見返しに「乾蔵書」角印と「絵入りのEX LIBRIS」印、裏表紙の見 返しに「乾蔵書」角印が、それぞれ押印されています。
 

いぬいの旧蔵書の洋書

 児童文学者の神宮輝夫が作成した「いぬいとみこ著作目録」によれば、いぬいの創作は、中国、チェコスロ バキア、ソビエト、フランス、ギリシャで翻訳出版されています11)。いぬいの旧蔵書には、『木かげの家の小人 たち』の翻訳書として、フランス版の『Le secret du verre bleu』(1971)12)とギリシャ版の『Τό γαλάζιο καπέλο』(1974)13)が含まれていました。

 いぬいの旧蔵書の洋書には、イギリスの児童文学作品のロシア語訳もありました。P.L.トラヴァースの『メア リー・ポピンズ』は『Мэри Поппинс』(1968)14)、A.A.ミルンの『クマのプーさん』は『Винни- Пух и все-все-все』(1969)15)として、当時のソビエト連邦で刊行されました。2冊の翻訳書の 挿絵は、イギリスの原書の挿絵ではなく、ソビエト連邦の画家が独自に描きました。日本人の読者になじみの ある岩波書店刊の『メアリー・ポピンズ』と『クマのプーさん』は、イギリスの原書の挿絵が採用されています。そ こで、2冊のロシア語版の挿絵は、日本の読者には新鮮な印象を与えると思います。

 

おわりに

 大学生の頃から、ブックセンター・キャンパスで古書を購入してきました。先日、店主の岡田富朗さんに、壷井栄の『二十四の瞳』の出版状況16)や、石井桃子の『クマのプーさん』関連資料、に関心があることをお話しし たところ、いぬいとみこの関係資料を閲覧する機会を頂きました。今回の店内展示を通じて、いぬいとみこの 関係資料に親しんで頂くと同時に、いぬいの児童文学作品を再読して頂けますと幸いです。

 新刊書や古書の出版流通事情の変化によって、つくば市天久保地区の古書店も少なくなりましたが、ブック センター・キャンパスの発展を期待しております。

​​

注・引用文献(*印は展示資料)
1)中多泰子.“いぬいとみこ”.日本児童文学大事典 第1巻 人名 あ~と.大阪国際児童文学館編.東京,大日本図書,1993.10,p.75.

2)いぬいとみこ.万沢まき宛の書簡一式(葉書7枚,手紙1通).1952.9-1953.6. *

3)トペリウス作.星のひとみ.万沢まき訳.東京,岩波書店,1953.2,263p.(岩波少年文庫,51)

4)岩波書店編集部編.なつかしい本の記憶:岩波少年文庫の50年.東京,岩波書店,2000.6,233,16p.(岩波少年文庫,別冊);若菜晃子編著.

   岩波少年文庫のあゆみ:1950-2020.東京,岩波書店,2021.3,214,87p.(岩波少年文庫,別冊2)

5)いぬいとみこ作,吉井忠画.木かげの家の小人たち.東京,福音館書店,1967.7,276p.(福音館創作童話シリーズ) *

6)いぬいとみこ作,吉井忠画.くらやみの谷の小人たち.東京,福音館書店,1972.6,403p.(福音館創作童話シリーズ) *

7)いぬいとみこ.北極のムーシカミーシカ.東京,角川書店,1975.12,230p.(角川文庫,3589(C-4))挿絵はp.157に掲載.

8)いぬいとみこ.子どもと本をむすぶもの.東京,晶文社,1974.12,263p. *

9)ムーシカ文庫の仲間たち編.ムーシカ文庫の伝言板:いぬいとみこの文庫活動の記録.川崎,てらいんく,2004.3,400p.

10)ミルン,クリストファー.クマのプーさんと魔法の森.石井桃子訳.東京,岩波書店,1977.12,306p. *

11)神宮輝夫.現代児童文学作家対談 6 いぬいとみこ・神沢利子・松谷みよ子.東京,偕成社,1990.1,433p.「いぬいとみこ著作目録」は,p.101-110に掲載.

12)Inui, Tomiko. Le secret du verre bleu. Nakamura, Noriyasu, trans. [Paris],Fernand Nathan, 1971, 191p. (Bibliothèque international) *

 『木かげの家の小人たち』仏訳.

13)Inoyi, Tomiko. Τό γαλάζιο καπέλο. Ζωρζ, Σαρή, trans.Ἀθήνα, Κέδρος, 1974, 170p. *『木かげの家の小人たち』ギリシャ語訳.

14)Трэверс, Памела Линдон. Мэри Поппинс.Заходер, Борис, trans. Москва, Дет. лит., 1968, 239p.*『メアリー・ポピンズ』露訳.
15)Милн, Алан Александер.Винни-Пух и все-все-все. Заходер, Борис, trans.Москва, Дет. лит., 1969, 206p. *『クマのプーさん』露訳.

16)大庭一郎,古木茜.『二十四の瞳』の編集と出版.令和元年度第63回日本読書学会大会発表要旨集.2019.7,p.1-10.

一部展示リスト書誌データ

(書簡:一式)

・いぬいとみこ.万沢まき宛の書簡一式(葉書7枚,手紙1通).1952.9-1953.6.

 

(和書:4点)

・いぬいとみこ作,吉井忠画.木かげの家の小人たち.東京,福音館書店,1967.7,276p.(福音館創作童話シリーズ)

・いぬいとみこ作,吉井忠画.くらやみの谷の小人たち.東京,福音館書店,1972.6,403p.(福音館創作童話シリーズ)

・いぬいとみこ.子どもと本をむすぶもの.東京,晶文社,1974.12,263p.

・ミルン,クリストファー.クマのプーさんと魔法の森.石井桃子訳.東京,岩波書店,1977.12,306p.

 

(洋書:4点)

・Трэверс, Памела Линдон. Мэри Поппинс.Заходер, Борис, trans. Москва, Дет. лит., 1968, 239p.*『メアリー・ポピンズ』露訳.

・Милн, Алан Александер.Винни-Пух и все-все-все. Заходер, Борис, trans.Москва, Дет. лит., 1969, 206p. *『クマのプーさん』露訳.

・Inui, Tomiko. Le secret du verre bleu. Nakamura, Noriyasu, trans. [Paris], Fernand Nathan, 1971, 191p. (Bibliothèque international)

 *『木かげの家の小人たち』仏訳.

・Inoyi, Tomiko. Τό γαλάζιο καπέλο. Ζωρζ, Σαρή, trans.Ἀθήνα, Κέδρος, 1974, 170p. *『木かげの家の小人たち』ギリシャ語訳.

「児童文学作家いぬいとみこの関係資料」

筑波大学 図書館情報メディア系 講師

大庭一郎

はじめに

 今回は、いぬいとみこの関係資料(自著(和書・洋書)、書簡等)が展示されています。そこで、幾つかの展示資料について、紹介したいと思います。

 いぬいとみこ(本名:乾富子,生没年:1924.3.3-2002.1.16)は、1950(昭和25)年から1970(昭和45)年まで岩波書店に勤務しながら、児童文学の創作活動を続けました。岩波書店では編集者・翻訳家の石井桃子の下で「岩 波少年文庫」の編集に従事し、これらの仕事がいぬいの児童文学作家の基礎を作りました。1957(昭和32)年に 宝文館から出版された『ながいながいペンギンの話』は、新しい幼年文学として評価され、毎日出版文化賞を受賞 しました1)。

岩波書店在職中のいぬいの書簡

 岩波少年文庫(1950年12月創刊)の初期の編集事情は、翻訳家の万沢まき宛にいぬいが記した書簡(葉書7枚・手紙1通、1952-1953)を通じて、垣間見ることができます2)。当時、翻訳家の万沢まきは、「フィンランドのアン デルセン」といわれたトペリウスの童話13点をスウェーデン語から日本語に翻訳し、トペリウスの童話集『星のひと み』(1953)をまとめていました3)。

 1952(昭和27)9月11日の葉書では、「トペリウスの方が、企画会にとおりましたので、ほっとしました。」と万沢に 伝えています。9月20日の手紙では、「石井さんは、二三日よそへ参りましたので、トペリウスのゲラを、お送りする ようにとのことでした。/「星のひとみ」のはじめの二枚ほど、石井さんがエンピツを入れまして、お清書してみまし たが、原文とはなれてしまったかもしれず、どうか、ごらん下さいと申しております。/そして、もし、よろしければ、 だいたいあのような調子でつづきと、スイレン[注:短編童話名]のほうをおすすめ下さいませ。」と記しています。 10月22日の速達葉書では、「今月いっぱいに、出版部に入れたいと思っております。」と入稿予定が伝えられまし た。翌年2月10日の速達葉書では、「「星のひとみ」がやっと出来あがりましたので、献本十部、お返しするご本と いっしょに、お送りします。」と、刊行のお礼が記されています。

 石井桃子の指示を踏まえながら、いぬいが丁寧に児童書の編集作業を進めていたことを、これらの書簡から知 ることができます。なお、岩波少年文庫の発展は、岩波少年文庫の別冊2点にまとめられています4)。

店内展示第12回 
2021年6月16日(水)〜 8月30日(月)
「夢二版画展

夢二版画のこと 

 

大正イマジュリィ学会 山田俊幸                                              

 竹久夢二の魅力は版画にある。

これは誰しも何となくそう思ってはいても、夢二には軸物、額物といった肉筆も残されていることから、どうしてもそちらに気が行ってしまうという結果になる。そちらもそれなりに見所があり、見栄えがするのである。だけれども、魅力は版画、あるいはイマジュリィといわれる紙の上の図像にあるのである。

 もうずいぶん前のこと(50年以上前か)だが、京王百貨店(新宿)で夢二展をみたことがあった。おそらく、そこではじめて夢二の魅力にとらえられたのだと思う。どういうわけだったか、一緒に見て歩いたのは古本屋さんで若い私などの先達だった麦書房の堀内達夫さんと伊藤信吉さんだった。誘われた記憶がないから、会場で出会ったのだろう。堀内さんのつれが伊藤さんだったと思う。私の書物好きは昔も今もかわらないから、夢二の大量の書籍芸術にうっとりしていた。その横で堀内さんと伊藤さんは、肉筆についてあれこれの評をしていた。古いことなので定かではないが、これはダメだねぇという言葉がいくつも吐かれた。その頃の私には判断不能の判断だった。

 伊藤さんは萩原朔太郎の早い研究者であり詩人で、夢二で育った年代。当時50歳くらいとしても、どれだけ夢二を見てきた人かわからない。堀内さんは古本屋さんだが、恩地孝四郎の特集をした「本」という雑誌を出し、その巻末には時々、竹久夢二のものも売品として出ていた。市場(いちば)で夢二を多く見て来た人だ。その2人がそろって「ダメ」というのは贋物だったのだろう。

 

 美術展覧会には贋物は出ないというのは間違いで、美術展覧会だからこそ贋物が出るのだ。担当学芸員は専門家ではない。コレクターが出すといえば、よほどの場合がないかぎりことわれない。「連れ」という出し方がある。Aを借りたいというと、A・B一緒なら借そうという。Aは本物、Bは微妙という借り方である。カタログがBを本物にする。また学芸員の目のない「いさみ足」がある。いかにも、みたいなものを選び、失敗するのだ。あの展示のどれがそうだったのか今は判らないが、肉筆のこわさである。

 のっけの夢二展の経験がそうだったので、私は夢二肉筆についてはしばらく判断をしないようにした。従って夢二は書籍内の版画で楽しむこととしたのである。とはいっても、昔から夢二本は高価。ショーケースには何十万円の夢二本が並んでいた。もちろん、手が出せるものではない。とはいえ、毎週のように開かれる古書会館での古本即売会には数千円(これでも高いのだが)、書籍からの版画の切り落としや、汚本が時々出た。これが夢二を手にできるわずかな機会だった。「竹久夢二の魅力は版画にある」とは、そんなことからなのだろう。

 

 私的な夢二の思い出を記したが、ブックセンター・キャンパスでの夢二展示は、小さいながら楽しげだ。

 夢二版画だが、夢二が摺りまで監督したのは港屋版(今のではない)だけだろう。柳屋版も見ていないにちがいない。とはいっても、フランスのポショワール再現をしようとした「婦人グラフ」の木版はステキだ。加藤版画研究所の「雪の夜の伝説」は没後の版。とはいえ、加藤の力のある再現を見せてくれる。版画は再現性の問題でもあるのだ。絵はがきは、加藤で戦中、戦後と2度出している。戦前のものは海外コレクターの人気が高い。木版楽譜は、夢二在世中だが、おそらくデザインなのでおまかせだっただろう。

 会場にはこの他、本なども並ぶかもしれないが、こうした小展示は、来歴さえはっきりさせれば、OKである。

店内展示第11回 
2021年5月1日(土)〜 5月31日(月)
「誰もが知ってる、
          知らない 桃太郎」

桃太郎-鬼退治から地域発信へ 
                                                           
岡山城学芸員 小野田 伸

 江戸時代、大名などの子供は絵巻で桃太郎のお話に親しんだという。鬼退治に行くところはどの絵巻もほぼ同じだが、桃太郎の誕生には大きく分けて二通りあり、桃から生まれる場合と、おじいさん、おばあさんが桃を食べて若返り、そして桃太郎が生まれる場合である。時にはイヌ、サル、キジ以外にもウサギやカニがお供をする絵巻もあった。庶民に親しまれた和本の桃太郎では、もっと様々な筋書きがあった。
 その桃太郎が今親しまれている筋書きになったのは、明治になり、国語の教科書に採録されたことが大きいという。また、児童文学の父と呼ばれる巌谷小波(別号:漣山人)は、昔話を読みやすい筋書きに整理して子供向けにたくさん出版した。その第一巻が桃太郎、このことも大きく影響したようだ。
 今回の展示では、そうした江戸から明治そして今日までの桃太郎本が一堂に会すという。表紙の絵柄の移り変わりと合わせて、とても楽しみである。
 話しは逸れるが、巌谷小波は、アメリカを親善訪問した際にペリーの墓前で記念写真を撮っている。その隣に立っていたのは、今年の大河ドラマの主人公・渋沢栄一。日本の児童文学の父と資本主義の父が、近代日本の幕開けにゆかりのペリーの墓前に立っている。以前勤めていた博物館で、明治の雑誌の切り抜きとして、その写真を見たとき、桃太郎話を初めて読んだ時のような心躍るものを感じたことを思い出す。
 そう考えると桃太郎というのはある種、人々を元気にするものと位置づけられていたのかもしれない。昭和のはじめ昭和恐慌で地方の経済が疲弊したとき、桃太郎ゆかりの地が全国で多く誕生した。これも地域の活性化を桃太郎に託したものだったといわれる。私の住む岡山も桃太郎ゆかりの地で有名だが、そのきっかけの一つは、昭和5年の陸軍大演習開催にあたり、岡山を全国に発信する手段として考えられた。いつしか桃太郎は地域発信に情熱を傾けた人々の歴史の象徴にもなっていたのだ。

一部展示リスト

  1. 「伽噺桃太郎 画:菱川春宣 明治23年 木版 浮世絵」 OTOGIBANASHI MOMOTARO

  2. 「教育小供絵噺 桃太郎 画作:金井直三 大正6年4版 発行:金井信生堂」

  3. 「教育小供絵噺 桃太郎 画作:金井直三 大正6年4版 発行:金井信生堂」

  4. 「教育絵本 桃太郎 大正13年 発行:湯川明文館」

  5. 「教育画話 桃太郎とポンチ 編:榎本松之助 大正6年 発行:榎本書店 」

  6. 「冨士屋のコドモヱホン 桃太郎 昭和2年 発行:富士屋書店」

  7. 「サザナミお伽絵噺モモタラウサルトカニ コブトリ編:木村小舟 昭和8年 発行:吉田書店」

  8. 「コドモヱホン 桃太郎 文:清水茂三 画:河島赤陽 昭和15年 発行:大日本愛国絵本会」

  9. 「講談社の漫画絵本 ももたろうさん 作:熊川正雄 編:原沢育司 昭和30年 発行:講談社」

  10. 「講談社の絵本 桃太郎 絵:齋藤五百枝 文:松村武雄 編:曾我四郎 昭和31年 発行:講談社」

※他多数

店内展示第10回 
2021年3月17日(水)〜4月30日(金)
「版画、古地図、絵葉書に見る
    むかしの茨城」

「小林清親の絵を見よう」  

筑波大学図書館情報メディア系教授

綿抜豊昭

                                                  

 ある研究のために必要な情報を集めるのは生産性の高い行為である。一方で、おおまかな枠組みで情報を収集して、ある程度たまったら「何か」をつかむという行為も、文化研究には必要と思っている。私事で恐縮だが、吉川弘文館より刊行された『恋する日本史』に拙稿「〈恋文集〉について」が収録された。「恋」は文学における重要なテーマなので、古書店で見かけるたびに、江戸時代の「恋文の書き方」の本を購入していたのだが、このような成果物になるとは考えもしていなかった。錦絵、広告、観光スタンプなどいろいろ収集品はあるが、個々ではとりたてた研究成果は出ず、おそらく道楽消費におわるのであろう。しかし、文化という文脈をつかむのには実に有益な品々となっている。

 

 さて、このような自分にとって、楽しみの一つになっているのが、ブックセンター・キャンパスで定期的に行われる展示である。おおまかなテーマのもとに展示がなされ、展示スペースはこじんまりとしているが、じっくりとみることができる。そのあとに、広い店内の古書を一通りみると、こんな本があったのかと驚かされる。

 

今回のテーマは「版画、古地図、絵葉書に見る むかしの茨城」である。筑波山関連は、自分も収集しているから、多少はわかるのだが、なかなかの珍品が展示される。今回出品されるなかで、個人的におススメなのは「日本名勝図会 常陸桜川より筑波山を臨む」である。明治を代表する浮世絵師小林清親によるものである。清親は「明治の広重」とも呼ばれるだけあって、筑波おろしに吹かれる木々や農人が実に見事である。ぜひ現物をご覧になっていただきたい。

一部展示リスト

1.                 版画 常陸桜川より筑波山を臨む 日本名勝図会 明治30年 小林清親画

2.                 版画 茨城県常陸国多賀郡大津五浦眞景図 広重画

3.             古地図 常陸国常州十一群全図  

4.             古地図 大日本道中獨案内細見図 明治27年 

5.             古地図 十万分一水戸及土浦近傍圖 附二万分一水戸市

                               ・湊町及磯濱町附近圖 昭和4年 陸地測量部編纂

6.             鳥瞰図 常陸鮎川の海 昭和9年 鮎川海水浴旅館組合

7.             鳥瞰図 ひとりでわかる登山案内 大正14年 筑波史蹟研究会発行

8.             鳥瞰図    筑波山登山案内図  

9.                 和本 佐夜中山集 寛文4年跋 

10.               和本 平太郎一代記 明治22年 

11.               和本 高祖聖人御伝絵略解 江戸期 

12.               和本 親鸞聖人御一代記図絵 江戸期 

13.               和本 萬葉集 江戸期 

14.               和本 大日本史 243巻 100冊 嘉永4年 徳川光圀編

15.               和本 利根川図志 復刻版 和綴 6冊 昭和48年 

16.           道中記 伊勢 金毘羅 道中記  

17. パンフレット  親鸞の聖跡を訪ねて 東京鉄道局 水戸運輸事務所

18.            絵葉書   茨城百景 大洗風景  

19.            絵葉書   袋田名勝  

20.            絵葉書   阿字ヶ浦  

21.            絵葉書   筑波鐵道名勝繪葉書 筑波鉄道株式会社

22.            絵葉書   大飛行船 霞ヶ浦来航記念 独乙ツエペリン伯号  

23.            絵葉書   組積 板敷山 茨城県新治郡恋瀬村 大覚寺

24.        古瓦拓本   常陸国分寺、結城廃寺、他  

※他数点  ショーケース全3台にて展示

店内展示第9回 
2021年1月20日(水)〜3月14日(日)
「手紙

「近代名家の手紙 」

大東文化大学教授

成田山書道美術館非常勤学芸員

髙橋利郎

日中古今の名筆には手紙が少なくない。

  草書の名品、書聖王羲之の「十七帖」や空海が最澄に宛てた「風信帖」、藤原佐理の詫び状「離洛帖」など、書の学習にも不可欠な遺墨が今日に数多く伝わっている。文面もさることながらその書きぶりにも差出人の受け手に対する思いが籠もるのであろう。人の言葉は、声と文字とで相手に届く。話しぶりがその人の人となりを示すのと同様に、書きぶりもまたその人に代わって時間を超え、距離を超えてその人格を伝えていく。「線の行者」と呼ばれた日本画家、村上華岳は手紙を書くときの気持ちを次のように綴っている。

     

     私は滅多に手紙を書かないが、書けばなるだけうまく書きたいと思ふ。

  この「うまく」といふところには多少の語弊もあるやうだが、さう思ふからこ   

     そ、一本の手紙も容易に書けない気がする。(『画論』)

    そして、そんな苦心があっても手紙を書くことは楽しい、と続けている。

 

 今回の企画展示では、渋沢栄一をはじめとする近代名家の手紙を見ることができる。実業家、政治家、文学者、画家、書家、いずれも風趣に富んだ書きぶりで、その人を彷彿とさせる。高安月郊宛の書状冊などを見ると、手元に届いた手紙に愛着を抱いていた様子がよくわかる。

 毛筆のなかにペン書きが交じっているあたりはいかにも近代人らしい。少し前まで、こうした手紙の蒐集も一般的で、コレクターも少なくなかった。今日ではこれを読むのにひと苦労するからか、市場での関心はだいぶ薄れているようだ。しかし、そのひと苦労が、手紙の主の体温を感じ取るための心地よい作業になるようにも思うのである。

  差出名/宛名

1.   渋沢栄一 / 藤山雷太 毛筆

2.   松永安左衛門 毛筆

3.   大久保一蔵(利通)毛筆

4.   大久保利通 / 伊藤博文 毛筆

5.   井上馨 毛筆

6.   森有礼 毛筆

7.   牧野伸顕 / 九鬼隆一 毛筆

8.   島崎藤村 / 高安月郊 毛筆

9.   志賀直哉 / 山崎斌 ペン

10. 有島武郎 毛筆

11. 斎藤茂吉 / 川端千枝子 毛筆

12. 永井壮吉(荷風) 毛筆

13. 谷崎潤一郎毛筆

14. 三島由紀夫/ /葛井欣士郎 ペン

15. 火野葦平 ペン

16. 徳富蘇峰 毛筆

17. 木村武山 毛筆

18. 小川芋銭 毛筆

19. 堂本印象 毛筆

20. 松林桂月 毛筆

21. 梅原龍三郎 毛筆

22. 安井曾太郎 毛筆

23. 上田桑鳩 毛筆

24. 金子鷗亭 / 飯島春敬 毛筆

25. 浅見錦吾(喜舟) 毛筆

店内展示第8回 
2020年12月26日(水)〜1月14日(木)
「双六のいろいろ

江戸・明治・大正・昭和時代の双六

(複製含む)計23枚を店内ショーケースにて展示

 

<展示作品一部下記>

1. 女出世双六(仮)タイトル記載無(一東斎芳綱写、板元山庄  江戸期)

2. 春興手習出精雙六 (画広重、江戸期、イタミ)

3. 新板伊勢参宮廻双六 (江戸記、イタミ)

4. 東海道名所記 新板道中雙六 (画:豊国、江戸期、イタミ)

5. 東京小学校教授雙録(複製)

6. 新版ヲッペケペー雙六(複製)

店内展示第7回 
2020年10月10日(土)〜11月30日(月)
「続・日本の蔵書票展

  2019年12月に店内展示第1回として開催した

【日本の蔵書票展】を好評につき再び開催。

全45名の作家からなる計382点の蔵書票作品の中から

約110点を展示。前回展示できなかった作品を多数ご覧いただけます。

<展示作品一部下記>順不同

  1:畦地梅太郎 2点

  2:池田満寿夫 2点

  3:板祐生   4点

  4:稲垣知雄  4点

  5:岩佐なを  13点

  6:岩見禮花  4点

  7:牛田雞村  3点

  8:大内香峰  3点

  9:大本靖   22点

10:梶山俊夫  10点

11:加藤武夫  8点

12:金守世士夫 27点

13:川上澄生  16点

14:川西祐三郎 3点

15:小林ドンゲ 3点

16:斎藤清   4点

17:佐藤米次郎 10点

18:清水洋子  12点

19:清宮彬   4点

20:関野準一郎 4点

21:芹沢銈介  4点

22:武井武雄  27点

23:塚越源七  15点

24:敦沢紀恵子 25点

25:徳力富吉郎 17点

 26:萩原英雄  11点

 27:橋本興家  5点

 28:初山滋   4点

 29:平塚運一  2点

 30:日和崎尊夫 4点

 31:古沢岩美  3点

 32:前川千帆  5点

 33:前田政雄  3点

 34:松見八百造 14点

 35:馬渕聖   5点

 36:馬渕録太郎 2点

 37:三井永一  4点

 38:宮下登喜雄 23点

 39:宮本匡四郎 3点

 40:守洞春   5点

 41:山高登   7点

 42:山内金三郎 3点

 43:横田稔   12点

 44:吉田穂高  3点

 45:若山八十氏 18点

​【店内展示一覧】

第1回, 2019年12月1日-30日      ・日本の蔵書票展

第2回, 2020年 1月6日-31日       ・POPULER SCIENCE

                               「ポピュラーサイエンス 70年前の科学雑誌が見た世界」

第3回,              2月1日-3月8日     ・貝合わせ展

第4回,              3月9日-4月26日     ・直筆原稿に見る詩の世界

第5回,              5月16日-6月30日   ・色紙・短冊に見る俳句の世界

第6回,              7月6日-8月31日     ・創作版画の草分け 永瀬義郎展

第7回,            10月10日-11月30日 ・続・日本の蔵書票展

第8回,            12月16日-1月14日    ・双六のいろいろ

第9回, 2021年 1月20日-3月14日      ・手紙

第10回,            3月17日-4月30日      ・版画・古地図・絵葉書に見る むかしの茨城

第11回,            5月1日-5月31日         ・誰もが知ってる、知らない 桃太郎

​第12回,           6月16日-8月30日  ・夢二版画展

​第13回,           9月15日-10月15日  ・いぬいとみこ展

第14回,           11月1日-12月26日 ・文化勲章受章者の筆跡