top of page
  • 執筆者の写真ブックセンター・キャンパス 岡田

古書店餘話 1 


 私が18歳で初めて開いたお店は、昭和29年頃に駒込駅近くで始めた約3坪程度の小さな古本屋でした。その場所は人通りも少なく、他にお店もないような場所でしたが、駒込駅から染井を通り抜けて東京外国語大学に向かう道の途中に位置していたため、学生の方々に足繁く訪れていただきました。


 その中の一人が水嶋さん(注1)という方でした。


 ある日、水嶋さんがお帰りになった後に本棚を見ると、あるはずの本が見当たらず、不思議に思って探してみると、棚の隙間に隠されているのを発見しました。数日後、水嶋さんがその本を購入されたのですが、それは「昭和29年 初版 東京創元社発行 エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』」という一冊でした。


 その後、私は巣鴨、赤羽、軽井沢、つくばに店舗を出し、水嶋さんもソニーに入社され、東南アジア、アメリカ、ドイツ、そして東京とキャリアを積まれ、ついに本社の重役にまで昇進されました。


 そして月日が経ち、今から約3年ほど前に水嶋さんから「本を整理したいので引き取ってほしい」という連絡を受け、ご自宅に伺うと、なんと、多くの蔵書の中にあの当時お買い上げいただいた「フロム『自由からの逃走』」があったのです。その他にも「オルテガ『大衆の反逆』」や「E・H・カーの『浪漫的亡命者』」など、当店でお買い上げいただいた本があり、約70年前に私が販売した本と再び出会うことができ、とても感激しました。

 水嶋さんは2年ほど前にお亡くなりになりましたが、お茶目な彼のことだから、ひょっこり顔を見せに来てくれるような気がしてなりません。



(注1)水嶋さん

水嶋康雅

1966年6月ソニー(株)入社。取締役・執行役員上席常務・常任顧問を経て、2006年6月定年退社。

コースター蒐集家

閲覧数:102回0件のコメント

最新記事

すべて表示

古書店餘話2

佐藤朔先生と軽井沢高原文庫 佐藤朔先生との出会いは、約40年程前に私が旧軽井沢に古書店を出店した時でした。 ある時、「慶應の佐藤です。本を引き取りに来てほしい。」という連絡を受け、旧軽井沢の急な坂を登った所にある別荘を訪ねました。その後、時折先生がお店に立ち寄ってくださるようになり、夏になるとセゾン美術館や軽井沢高原文庫に行かれる際には、私もご一緒させていただきました。帰りには星野温泉や中軽井沢の

Comentarios


bottom of page